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ヒマラヤ登山にもモノサシを

2日ほど前、Twitterで登山がスポーツかアートかという議論をしました。

「登山はスポーツであるべきだ」という私の呟きに@iguacky さんや @green2netさん が反応してくださり、深夜?早朝の山岳放談となったのです。詳しくは下のリンクで見ていただければ分かります。

 

http://togetter.com/li/68191

 

内容は見ていただければわかりますが、登山を知らない人が見るかもしれないので、あらかじめ断っておきます。今の登山界では私の意見がかなり異端で、彼らの反論がマジョリティの反応です。ただ、これだけ反応を正直に表明してくれる方はなかなかいません。大体、こんなこと言っても、相手にされないのがオチなことが多いわけで。そういう意味で、送ってくださったお二人には本当に感謝しています。

 

それはさておき。

「登山」の業界を盛り上げるにはどうすればいいか。簡単に言うと、

1) トップを上げる

2) ボトムを下げる

の2つしかないと思うんですね。

業界の盛り上げということを考えたときに指標はどうしても登山人口、ということになる。そうすると登山のプロの方々を頂点とする三角形のトップを引き上げるか、底辺を押し下げるか。

実は、底辺を押し下げるのもそんな簡単な作業ではありません。登山の場合、他のスポーツと違って、登山のプロモーションと啓蒙活動を同時にやらなければ、事故が起こって完全にブレーキとなってしまう。H12年ごろ(登山人口930万人)の中高年登山ブームの後、事故が続き、事故によるマスコミのネガティブキャンペーン(別にマスコミはそれを意図していたわけではないのですが)のせいで数年で登山人口550万人まで落ち込んでいます。啓蒙活動を如何に並行させていくか、というのが重要。それが登山道具のレンタルへとつながっていく、という話はまた今度。

 

今回の話は、ボトムの話ではなく、トップの話。

トップを引き上げるためには、トップの人たちの環境整備が重要です。トッププレイヤーが生活のことを気にせずに競技に打ち込めるようにしなくてはならない。もちろん、野球やサッカーのようなメジャースポーツではありませんので、ン億円ももらうようになることは不可能だし、そんな必要もないでしょう。ただ、業界の発展のためには業界トップのプレイヤーがプレイに打ち込めるようにしなければ、世界とも戦っていけないし、トップの引き上げにもならない。

そのためには、「登山」という入場料を取れない、もしくは、ヒマラヤまでは観客が行けない、という競技の特性上、「企業からのスポンサード」に頼るしかないであろうと思います。

 

では、企業は、何にカネを出すか。

山の業界の中の企業であろうと外の企業であろうと、企業にメリットがないとカネは出しません。そういう形ではなく、中小企業の社長が、自分の趣味で、応援している登山家のタニマチのようになってカネを出す、これを否定るツつもりもありませんし、現状多い形だとは思いますが、これでは構造的な解決にはならない。

企業のメリット、それは「露出が多いこと」だったり、トップを応援している、ということで「いいイメージを訴えられること」だったりするでしょう。いずれにしてもマスに向けて何らかのことをしなければならない。できる形をつくらなければならないでしょう。

 

そのために必要なこと、それは「わかり易さ」だろうと思います。一般にも理解できる「わかり易さ」。

何が凄くて何が凄くないのか。この評価軸が分かり易くない限り、一般に受け入れられにくい。

そもそも、山の世界には「一般に受け入れられる必要がない」という考え方の人もいます。ヒマラヤの登山の難しさなんて、結局一般の人には分からないんだから、と。ただ、そうして一人よがっていくと、結果、登山の業界の縮小につながり、自分自身の首を絞めることになる。

登山の世界で「分かり易さ」”だけ”を追及した形は「ショービジネス」になってしまいます。自分自身がその一翼を担っていたわけですが、結局世界七大陸最高峰なんていうのは、先鋭登山でもなんでもないショービジネスです。だから、栗城君のように感動を共有する、という話になる。別に感動を共有するっていうのは彼が初めてじゃなくて、セブンサミッターの中でいうと石川直樹さんが言い続けていたことです。野口健さんがテレビ局連れて行ったり、私がThink Pad持ってあがったり、形式や方向性や難易度はまったく異なりますが、「先鋭的な登山」ではなく「ショービジネス」をやっていることには変わりありません。

 

じゃあ、そのショービジネスがよくないかというと、そういっているわけではなくて、分かり易さというのは必要だと思うんですね。ただ、一昔前は「先鋭的な登山」が「ショービジネス」として成り立っていました。ショービジネスというと、語弊があって、言葉に対して違和感を感じる人も多いかも知れませんが、とにかくわかり易かった。別の言い方をすると、アスリート側でわかり易さを意識する必要がなかった。「日本人初のエベレスト」の植村さん、「世界初の女性エベレスト」の田部井さん、「女性初ヨーロッパ三大北壁」の今井さんを始め、「日本初の8000m初登」のマナスル、などいろいろと先鋭的かつ一般にも分かり易いモノがいくつもあった。8000mということだけである程度すごいと言われていた時代になっても、やっぱりそこまで考える必要がなかった。

 

今はどうかというと、登山の世界でいわれる本当にすごいことをやっても、一般の人には分からない。だから、「分かり易さ」を求める登山家と「先鋭」を求める登山家が2分するような形になってしまった。前者と後者が全く別物になってしまった。

 

話を戻して登山の世界の発展、というところを考えると、「分かり易さ」、「伝えやすさ」をトップが求める必要はありません。それは環境、周囲がやること。他のスポーツで見ればわかるでしょう。別にトップアスリートがプロモーション戦略を考える必要がない。そんなことしている暇があったら、一歩でも先鋭的なことをやることを考えていなくてはいけない。もちろん、一般の人に伝えるという作業は入ってくるべきでしょうが、そのしくみやルールや戦略まで考えるのは本末転倒でしょう。

 

そうすると、今の難しくなってしまった先鋭登山を分かり易く噛み砕く必要がある。

簡単に言うと、K2南南東リブとローツェ南壁とオルカとエベレスト・メスナークーロワールはどれが一番難しくて、どのくらい差があるのか、分かりやすく、しかも共通の概念がなければいけない。そして、一般の人が聞いたり見たりしてもそれが世界で最高レベルのことをやっているのだ、と理解されるようにならなければならない。個人的にもとっても知りたいです。メスナークーロワールと南南東リブのどちらが難しいのか。今、本当に先鋭的な登山のトップとされるルートはどこなのか。内容が分かり易くなければ、モノサシがより分かり易くなればいい。ノーベル賞受賞の研究内容なんて1つも分かってない私でも、ノーベル賞取った科学者・技術者は世界レベルなんだ、と一目瞭然、そんな感じです。ただ、登山の場合品種(ルート?)が限られているので、賞のようなものでなく、スケーリングする必要があるでしょう。今だと「人によって異なるスケール」となってしまいます。自然相手なんだからそんなことできるわけない、という反応も返ってきそうです。

 

自然相手の人によって異なるものにモノサシを作った例としてフリークライミングが挙げられるでしょう。未踏ルートを登った際には、初登者がグレードを決め、2登、3登で徐々に微調整を加えていくことで感覚的なものを定量的なグレードに落とし込む仕組みを作りました。

 

登山の世界の批判をしているわけでも個人を攻撃しているわけでもありません。今の登山界のスーパースターに対し、もっと露出して一般人に分かり易くしてほしい、とかあなたたちのやり方は別の方向に進むべきという願いを書いているのではなく、次のポテンシャルスーパースターがきちんとこの業界に残って打ち込めるための環境整備をしなくてはならないという願いを書いているのです。現状、日本に「プロレベル」の技術や実績を持っている人はいると思いますが、他のスポーツでいう「プロ」はいないでしょう。プロ契約を結んだといっても、それで完全に競技に打ち込めるレベルなのかというと疑問。自給自足で自分の登山を追及している人もいますが、その「清貧」をプロになる必要条件として強要するのはおかしい。

 

8000mのヒマラヤ登山なんてまだ始まって60年ほど。まだ業界が未成熟なのです。これからの仕組みを考えていく、次の1歩を歩みだしていく時期だし、その問題提起をしなければならない。多分、私の書いていることはドライすぎて違和感がある人も多いでしょう。私も登山歴20年の山脳?で考えると直感的に違和感がある部分もあります。ただ、逆のエッジの意見をいう人が出ない限り、折り合い点を見つけることは難しいのです。ある種、「自分がファンだったインディーズのアーティストがメジャーデビューして身近でなくなっていく」感覚かもしれません。が、山の世界は山の愛好家だけのマイナーなモノからもっと一般の人が知るモノになるために、脱皮をする時期なんだろうと思います。

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プロフィール

山田 淳

チョモランマの頂上でThinkPad

Author:山田 淳(やまだ・あつし)
株式会社フィールド&マウンテン代表取締役
「登山人口の増加」「安全登山の推進」がミッション。 登山道具の宅配レンタル 「やまどうぐレンタル屋」 新品・中古品販売 やまっ子

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